大国間政治に翻弄された小国にとって社会主義とは何だったのか?
ソ連が崩壊し、東欧が脱社会主義化を推し進める中、なお社会主義体制を堅持するキューバとヴェトナム。本書は、そんな両国にとってそもそも社会主義とは何だったのか、両国の苦難の歴史を概観しつつ再検討していく。
丹念な取材、インタビューを基に史実が再構成され、国際政治史の研究書からはなかなか捉えられない当時の雰囲気、実態が見えてくる。NHKスペシャルの面目躍如といったところだろうか。また、激動の時代を潜り抜けた当事者達へのインタビューも収録されており、史料としても非常に興味深い。16年も前に出版されたものだが、本書の価値はいまなお、色褪せていないといえる。キューバとヴェトナム両国のみならず、冷戦とは?社会主義とは?ナショナリズムとは?といったテーマに関心のある方には必読の一冊だろう。
現存する共産主義国家をどう民主化するか
このシリーズの今までの舞台が既に崩壊した元共産国家であったのに対し、本書の舞台は未だにしぶとく生き続ける共産国家。ソ連や東欧諸国に対して鋭い分析を行っていたNHKも、現存する共産主義体制に対しては取材姿勢が旧態依然で、産経新聞のような思い切りの良さは無い。それでも客観性は確かなので、両国の歴史を丹念に振り返ることはできます。前半では、モンカダ兵営襲撃、バチスタ政権崩壊、ピッグス湾事件、ミサイル危機等を通して、キューバの歴史を読み取れます。共産化の原因としては、カストロへの熱狂的な支持と中南米特有の反米感情ゆえに、この島国には外部情報が極めて入りにくかった事が挙げられます。亡命キューバ人の空からのビラまきを空爆だと国民の多数が信じ込んだのは、その典型ですが、キューバに限らず、独裁国家の民主化を促すには、やはり情報が鍵です。また、ピッグス湾事件はケネディ政権最大の失点とされていますが、この愚行が無ければ、キューバのソ連陣営入りは阻止できたかもしれません。 後半では、南ベトナム解放民族戦線の形成と発展、反共独裁政権の圧政、テト攻勢、サイゴン陥落、ドイモイ政策の展開などを通して、戦争と独裁政権下で苦しみ続けたベトナムの歴史を振り返ることができます。他にも原因は色々考えられますが、CIAが圧政を支援せず(飽くまで米国政権の意向を無視したCIAの暴走ですが、これで南ベトナム民衆が反米感情を抱いたことは事実)、ホーチミンルートの建設を早期に察知して中断させていれば、共産化は避けられたかもしれません。 こうした様々な要因で誕生した共産主義政権ですが、それがいかに民衆に受け入れ難いかは、その後の難民流出が物語っています。体制存続のためには両国とも市場経済を導入せざるを得なくなっていますし、それはやがて共産主義との矛盾に突き当たるでしょう。歴史を振り返るだけでなく、両国の民主化の可能性を探る上でも本書は最適な一冊だと言えます。
日本放送出版協会
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